信心銘  全文

◆悟り・ノンデュアリティ

信心銘(しんじんめい)は、中国・隋代の僧である僧璨鑑智禅師(そうさんかんちぜんじ:生年不明~606年没)の撰とされ、四言146句からなる漢詩であり、信心不二の境涯を簡明に詠嘆したもの。

八王子にある、鶴壽山 松門寺のサイトに原文と読みと現代語による解説が掲載されていますが、サイトに上にあるのは、A4サイズのPDFであるため、スマートフォンなど画面が小さい端末では読みづらいので、PDFから原文と解説文のテキスト(全文)を引用します。

三祖大師信心銘 一

至道無難 唯嫌揀擇
但莫憎愛 洞然明白
毫釐有差 天地懸隔
欲得現前 莫存順逆

道に至るに難しいことはない、ただえり好みすることを嫌うのである。憎むとか愛するとかがなければ、この世はほんとうに明白この上ない。しかしそこに毛筋ほどの差でもあれば、天地のようにはるかに隔っているのだ。眼の前のことを得たいと思うのなら順序などを考えてはならない。

三祖大師信心銘 二

違順相爭 是爲心病
不識玄旨 徒勞念靜
圓同大虚 無欠無餘
良由取捨 所以不如

違っているとか合っているとかを争うのは心の病と言うしかない。本来のことを知らなければただ静かにすわっているにすぎない。本来のことというのは丸い円のようなもので大きなこの世界と同じにどこにも欠けているところはないし余っているところもない。欠けているとか余っているとかいうのはわれわれが必要としたり要らなくなったりするからなのだ。だから本来のことというのは「こういうものである」としてはならないのである。

三祖大師信心銘 三

莫逐有縁 勿住空忍
一種平懷 泯然自盡
止動歸止 止更彌動
唯滯兩邊 寧知一種

原因とか結果を追求しても仕方がない、世の中は空虚だとか認めてもいけない。本来のことはふだんのことそのものだから、原因とか結果とか空虚とかいうことも自然にその中に尽きていく。動をやめて静につこうとしても、静がますます動じてしまう。動だとか静だとかにこだわっていてはどうして本来のことを知ることができようか。

三祖大師信心銘 四

一種不通 兩處失功
遣有沒有 隨空背空
多言多慮 轉不相應
絶言絶慮 無處不通

本当のことに通じていなければ、有だとか無だとか言う中に本当のことを見失ってしまう。有を捨てようとすれば有に埋沒してしまうし、空にしたがおうとすれば空に背いてしまう。言葉で語りつくそうとしても考えつくそうとしても本当のことには相応しない、しかし言葉を離れ考えから離れたからといって本当のことに通じないということはない。

三祖大師信心銘 五

歸根得旨 隨照失宗
須臾返照 勝却前空
前空轉變 皆由妄見
不用求眞 唯須息見

本来の姿に帰すれば本当のことを得るが、見たこと聞いたことに従ってしまっては大事なことを失ってしまう。少しでも外に向かって求める心を内に向けてみれば、以前に無だとか空だとか言っていたことには勝る。無だとか空だとかの見解がいろいろにかわるのはみだりに見解を付けるからである。真を求めてはならない、ただ見解ということをやめてみるべきである。

三祖大師信心銘 六

二見不住 愼勿追尋
纔有是非 紛然失心
二由一有 一亦莫守
一心不生 萬法無咎
無咎無法 不生不心

善悪などの見解にとどまることなく、また決して追求してはならない。すこしでも善悪の見解があれば、紛糾して本来のことを見失ってしまう。善悪とか有無とかはもともと一つのことであるし、もともと一つだということも一つということがあるわけではない。見解を起こさなければ、すべてのことにもともと間違いはない。もともと間違いなどないのだからそこには佛法もないし、見解がなければ本来のこともあるわけではない。

三祖大師信心銘 七

能隨境滅 境逐能沈
境由能境 能由境能
欲知兩斷 元是一空
一空同兩 齊含萬象
不見精粗 寧有偏黨

中身は表面によって見えなくなり、表面は中身の中に埋没する。表面は中身が有ってこその表面であり、中身は表面が有ってこその中身である。中身とか表面とか二つのことを知ろうとするなら、もともとそれが一つの何でもないものであることを知るべきである。一つの何でもないものといっても二つのときと同じに森羅万象を含んでいるのだ。本当のことを言っているのにそれが詳しいとか粗雑だとかいうことがあるものか、どこにそんなかたよりがあると言うのだ。

三祖大師信心銘 八

大道體寬 無難無易
小見狐疑 轉急轉遲
執之失度 必入邪路
放之自然 體無去住

大道はもともとゆったりとしたものだ。難しいことはなく易しいということでもない。狭い了見の者はそれを狐のように疑うからいっそう事を急いでいっそう遅々としてしまうのだ。
大道に執着すれば度が過ぎて間違った道に入ってしまう。大道を手放してみれば大道はおのずからそこにあるのだ。そこから去るというものでもないし、そこにとどまるというものでもない。

三祖大師信心銘 九

任性合道、逍遙絶惱、
繋念乖眞、昏沈不好、
不好勞神、何用疎親。
欲趣一乘、勿惡六塵、
六塵不惡、還同正覺。

本来のことに任せてみれば道にかなうものである。逍遙としていれば悩みなんてもともと無いのだ。心配事をしていると本来のことに背いてしまう。だからといってただ静かに坐しているだけではだめだ。好ましくないから精神が疲労してしまう。どうして本来のことから疎だとか密だとか決めつけてしまうのか。本来のこととひとつになろうと思えば、世俗のことを忌み嫌うことはない。世俗のことも忌み嫌わなければ、そこがかえって悟りの境地なのだ。

三祖大師信心銘 十

智者無爲、愚人自縛、
法無異法、妄自愛著。
將心用心、豈非大錯、
迷生寂亂、悟無好惡。

智慧ある者に為すべきことなどないが、愚かな人は為すべきことに縛られてしまう。間違った法などどこにも無いのだが、法を愛してそれに縛られてしまうのだ。心でもって心をどうにかしようとする、大きな間違いに違いない。法に迷ってしまうと心に空虚が生じ、悟ってみれば法が良いとか悪いとか言うことも無い。

三祖大師信心銘 十一

一切二邊、妄自斟酌、
夢幻空華、何勞把捉。
得失是非、一時放却、
眼若不睡、諸夢自除。

すべてのことに(善悪とかの)二極をたてて、自分勝手に考えてしまう。(そのような二極は)夢まぼろし、ありもしない花であって、苦労して捉まえてどうしようというのか。得失も是非もいっぺんに放り出してしまえ。眼が眠っていなければ、すべての夢は自然に消えてゆく。

三祖大師信心銘 十二

心若不異、萬法一如、
一如體玄、兀爾忘縁。
萬法齊觀、歸復自然、
泯其所以、不可方比。

心に異をたてなければ、すべてのことはひとつである。ひとつの姿はまさに悟りの境涯で、何ごとからも屹立していて因縁などはとっくになくなってしまっている。すべてのことはもともとひとつなのだから、おのずから本当の姿に帰っていくのである。その理屈などは忘れ、なにものも比較などしてはならない。

三祖大師信心銘 十三

止動無動、動止無止、
兩既不成、一何有爾。
究竟窮極、不存軌則、
契心平等、所作倶息。

動を止めようとしても動などは無く、止を動かそうとしても止はないのだ。(動だとか止だとかの)両極はもともと成り立たつものではないし、それでは一つかというと一つということも余計なことだ。極め尽くしてみればそこに至る筋道などはあり得ないし、本当のことはすべてのものに備わっているのだから、為すべきこともそこに消えていく。

三祖大師信心銘 十四

狐疑淨盡、正信調直、
一切不留、無可記憶。
虚明自照、不勞心力、
非思量處、識情難測。

狐のような疑いはきれいになくなって、本当の信が調ってくる。すべてのことはとどまることはないし、心に留め置くべきこともない。本当のことはそれ自体で明らかなのだから、私たちがどうこう考えることもない。「非思量」ということは、私たちの知識や感情では測りがたいのである。

三祖大師信心銘 十五

眞如法界、無他無自、
要急相應、唯言不二。
不二皆同、無不包容、
十方智者、皆入此宗。

本來の世界に、自他はない。とりあえずふさわしい言葉を探すなら、ただ二つではないと言うだろう。二つではないのだからだれかれと区別なく、すべてのものがそこに含まれるのだ。この世の智者は、みなこの宗(根本の真理)に入る。

三祖大師信心銘 十六

宗非促延、一念萬年、
無在不在、十方目前。
極小同大、忘絶境界、
極大同小、不見邊表。

ほんとうのことは時間の長い短いではなく、たったいまの様子は永遠にも通じている。在るとか無いとか言う以前にこの世界は目の前だ。小さいとか大きいとか言っても境目などはとっくになくなってしまっている。大きくたって小さいものと同じように誰もすがたを見たことがない。

三祖大師信心銘 十七

有即是無、無即是有、
若不如是、必不須守。
一即一切、一切即一、
但能如是、何慮不畢。
信心不二、不二信心、
言語道斷、非去來今。

有ということはもともと無いし、無ということは無が有るではないか。もしこのことがわからなければ(有だとか無だとかに)固執してはならない。一つということがすべてで、すべてのことは一つなのである。そのようであれば、人間が未熟であるなどということを心配する必要もない。本来の自分自身もそれを信じることももともと一つのことなのだ。一つのことが信心一体のいまなのである。そこは言葉の及ぶところではないし、過去だとか現在だとか未来だとかの問題でもない。

出典:

三祖大師信心銘
http://www.shomonji.or.jp/zazen/shinjinmei.pdf

鶴壽山 松門寺
http://www.shomonji.or.jp/

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