2011年から毎年おこなっている、東北自動車道の放射線量測定に行ってきました。
急いで、“結果を知りたい”という人は、最後の「測定結果の評価」をお読みください。
測定趣旨
自動車であちこち出かけることが多いで、東北自動車道を走行したときに、どれくらいの放射線量・被曝量になるのかというデータを色々と探してみましたが、地点ごとの数値はあっても走行時のデータが見つからないので、自分のために測定を始めたのがきっかけです。
測定する目的は、走行が安全かどうかを判断するためです。そのため、厳密な数値を取得することより、全体の傾向を把握することに主眼に置いています。
測定概要
2012年の測定までは、放射線量・被曝量が不明だったので、一人で測定していましたが、前回の測定で、被曝量が小さいことが分かったので、今回は運転者+測定記録者の二名体制で行いました。そのため、測定器も前回より多い5台、測定ポイントもパーキングエリア(PA)、サービスエリア(SA)だけでなく、インターチェンジ(IC)、ジャンクション(JCT)のデータも取っているので、前回よりきめ細かく把握できています。
使用した測定器
RADEX RD1503:GM管方式
RADEX RD1706:GM管方式
エアカウンター(AC):シリコン半導体/フォトダイオード方式
エアカウンターEX:Cslシンチレーション方式
メディキタス CK-6:シリコン半導体/フォトダイオード方式
測定データ
以下に測定データを表にして出しておきます。
放射線の測定においては、平均値を使うというのが原則なのですが、ジャンクション(JCT)や、インターチェンジ(IC)では停止して測定することができないので、地点通過時の計測値(背景緑色)をそのまま使っています。サービスエリア(SA)、パーキングエリア(PA)では、到着してから一分おきに五分間測定し、平均値(背景白色)としてあります。また数値を取得できなかった場所については、そのままだとグラフ化したときに見づらいため、前後の平均値で補間(背景黄色)してあります。
測定の原則から言えば、測定方法の異なる値、計測値、平均値が混在するのは正しい測定とは言えないのですが、上記のように制約事項があるため、測定方法の異なる値が混在したデータを使っています。
メディキタス CK-6のデータは、被曝量を測定するのに使用したので、最後の「測定結果の評価」で述べます。
エアカウンターEX(AC-EX)のデータが以下の表にはありません。他の方も書いていますが、低線量下(0.5μSv/h以下)において、エアカウンターEXは、かなり低めの数値を表示してしまう傾向があり、今回の測定においては、他の測定器のデータとの相関が悪く、線量の変化を読み取ることが出来なかったので、測定データからは外してあります。
※下の表は画像になっているので、クリックで拡大表示します。ブラウザの設定によっては、全体表示後にもう一度クリックする必要があります。
測定データのグラフ化
グラフ化にあたっては、見やすく、全体を把握しやすくするために、RADEX RD1503(赤線), RADEX RD1706(青線)の二つのデータのみ掲載とし、さらにグラフをスムージングしてあります。
※下のグラフは、クリックで拡大表示します。ブラウザの設定によっては、全体表示後にもう一度クリックする必要があります。
・グラフの見方
グラフでは、RD1503が赤線、RD1706が青線となっています。二台の測定器は基本的に同じGM管を使っているのですが、データが同じようにならず、かなり差が出ることがありますが、これは放射線測定特有の現象であり、測定ミスや測定器の故障ではありません。
気温や水温などの測定とは異なり、放射線の特に低線量下においては、測定対象となる放射線の飛来数が少なく、同じ測定器を並べていても、こちらの測定器には飛来するが、もう一方の測定器には飛来しないということが、不可避的に発生します。そのため、測定値でだいたい二倍くらいの差が出てくるのは普通のことです。そのため、放射線の測定においては、長時間測定し平均値をとることが必要になります。
今回の測定結果でも、サービスエリア、パーキングエリアでは5分間測定の平均値になるので、大きな差がないのですが、インターチェンジやジャンクションでは、平均化できないため、大きな差が出てしまうことになります。今回は安全かどうかの判断になるので、グラフ上の値に大きな差がある場合は、値の大きい方に注目してグラフを見てください。
測定結果の評価
東京から仙台まで東北自動車道を通過して往復することに関しては、特に問題ありません。
注意事項などについては、以下を良くお読みください。
【被曝量】
メディキタス CK-6で測定した、川口JCTから仙台南ICまでの自然放射線を含む被曝量(積算線量)は、往復で1.2μSvでした。これを他の被ばくと比較すると、
・胸部レントゲン検診1回が、50μSv
・東京-ニューヨーク間往復の航空機による移動が、200μSv
(高度が高くなるので宇宙線が増加する)
・胃の集団検診1回が、600μSv
(出展)文部科学省日常生活と放射線(リンク)(PDF)
とされていますから、それにくらべればかなり小さい数値です。
また、東京都新宿区における空間線量の平均が、約0.07μSv/hですが(東京都健康管理安全センター測定値:リンク)、国内の自然放射線量が高い場所だと、0.10-0.15μSv/h程度になるので、間を取って0.10μSvとすれば、半日(12時間)の被曝量は1.2μSvなので、殆ど差がないことが分かります。
東北道を自動車で仙台まで往復する人より、ゴールデンウィーク期間中に人間ドックに入ったり、海外旅行する人の方が、被ばく量が桁違いに大きいことになります。
【サービスエリアやパーキングエリアの放射線量】
サービスエリア(SA)やパーキングエリア(PA)は、日常的に清掃されており、また改築工事された場所もあり、その結果として、道路よりも放射線量が低くなっています。サービスエリアやパーキングエリアの放射線量については、RADEX RD1503, RD1706は低線量下では誤差が大きくなるので、右端のエアカウンター(AC)の数値を見て下さい。
道路区間と数値比較するために、測定はアスファルトの駐車場で車の中で行いました。エリア内の木々が茂っている場所や芝生などの場所では測定していません。他の人の測定を見ていると、それらの場所にはホットスポットも残っているようですが、駐車場のアスファルト面では全体的に低い数値になっていますので、線量が高い区間のサービスエリアやパーキングエリアでの店舗や休憩場所の利用は短時間で済ませるのであれば特に問題はないと思います。
最も放射線量が高い場所で、0.22μSv/hとなっています。0.22μSv/hというと、ちょっと高い数値のように見えるかもしれませんが、世界に目を向けると、イタリアの首都ローマの自然放射線量が、0.25μSv/hですから、特別高い数値ではないことが分かります。
【区間全体の放射線量】
矢板ICを過ぎて、国見SAまでの区間(赤の縦線で挟まれた区間)が全体的に放射線量が高いのは、昨年と同じ傾向です。インターチェンジやジャンクションおよびその間の道路部分のでは、ところどころ放射線量が高いピークがあり、今回の測定では、6か所のピークが認められます。
薄く青で塗った区間は、福島市街地に相当します。2011年の9月に測定した時は、最大で0.60μSv/hが出ていたのですが、昨年・今年とも、0.20μSv/hと大きく低下しています。これは道路とその周辺地域において放射能物質の除染が行われた結果だと考えています。
2011年と比較した場合、他の地域については、これほどの低減がないのを見ると、福島市以外ではあまり放射能物質の除染が進んでいないため、そのまま自然減(2011年当時に比べて、3割減程度)で放射線量が低下しているという感じです。特に同じ福島県でも、郡山市を見ると、大きな低減は見られておらず、対策されている地域に偏りがあるという印象です。
◆補足
放射能と放射線の区別について、まだ良くわかっていない人も多いようなので、補足しておきます。この区別が分かりにくいのは、報道関係でよく「放射能」というキーワードを使って報道することが原因の一つにあります。定義をまとめておくと、
放射能 = 放射線を出す能力のこと(物質や放射線を表しているのではない)
放射性物質 = 放射能がある物質 = 放射線を出す物質(セシウム134、セシウム137など)
放射線 = 放射性物質が放射する粒子線もしくは電磁波の総称
*セシウムの中でも、セシウム133は放射能を持たないので、放射性物質ではない
これを懐中電灯で例えるなら、
放射能 = 懐中電灯の能力
放射性物質 = 懐中電灯そのもの
放射線 = 懐中電灯の出す光
となります。
なので、報道機関が良く使う「放射能漏れ」というのは、「能力漏れ」ということになり正しい日本語ではありません。
放射性物質漏れの短縮形として使っているのだとは思いますが、誤解を招く表現になっており、報道機関が使う言葉としてふさわしいとは思えません。
「放射能漏れ」ではなく、「放射性物質漏れ」あるいは、「放射線漏れ」が正しい日本語になります。
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