ギターと弓の呪術的類似性

長い引用になり、引用のルールからは少々逸脱するかもしれませんが、とても良い思索的な文章なので、引用します。私自身中学から大学までの間、クラッシックというジャンルではありますが、ギターを弾いていた人なので、この文章に書かれていたことは体験的に理解できます。内田樹氏の言うところの長い枕の前文については、末尾のリンク先を参照してください。

どうもギター・プレイの神髄は、プレイヤーが「楽器の精霊」とでもいうべきものの訪れを受けて、「私が弦を弾いている」状態を去り、ついに「私をの身体を媒介にして弦がひとりでに鳴り出す」というような状態を成就することにあるように思われる。

ではいったいなぜ、とりわけギターという楽器において演奏者の憑依がひんぱんに起こるのであろうか。
これが本日の主題である。ながい「枕」であった。
考えてみれば、ギターというのは奇怪な楽器である。
木製の胴に金属や樹脂製の弦を張り、それを弾いて音を出すのである。調音はむずかしいし、衝撃にも、湿度にも、熱にも、弱い。よい音を出すためには指から血がでるほどの練習が必要である。
もっと安価で、丈夫で、音の狂いもないし、演奏も容易な電気楽器がさまざま揃っているというのに、いまだに音楽少年たちのギターへの偏愛に変化のきざしは見えない。これはかなり不思議なことだ。
さて、ここからが問題である。
「木部に弦を張り、それをはじいて音を出す」という原理的メカニズムにおいて、ギターはあるものに酷似している。それは何でしょう。
答は「弓」である。
実は「弓」は射手を高揚させ、トランスさせるような呪術的な力をもっているのである。では、なぜ弓がとりわけ呪術的な武具であったのか。

ドイツの哲学者オイゲン・ヘリゲルは東北帝国大学で哲学を講じているとき、縁あって、希代の弓の名手阿波研造師範のもとで弓術の修行を始めた。大正年間のことである。
岩波文庫に収められているヘリゲルの『日本の弓術』には、彼が信じる近代西欧的な身体訓練方法と、師範の示す日本的「修行」の文化的落差のあいだでとまどうヘリゲルの姿が活写されている。
ヘリゲルは身体訓練というものは、とにもかくにも、身体を意識で完全に統御することをめざすものだと信じていた。意のままに身体を運用すること、身体を「道具」として正確に操作しうること、それが近代的な意味での身体訓練の理想であったからだ。
それに対して阿波師範はまず最初に、「あなたは射において、自分は何をしなければいけないかを考えてはなりません」と教える。
ヘリゲルはこれを聞いて仰天する。「もし『わたし』が射るのでなければ、いったい誰が射るのです」と彼は反問する。
師範はこう答える。
「『それ』が射るのです。」
ヘリゲルにはその教えの意味がさっぱり分からない。しかしそれでも射の訓練は続ける。そして試行錯誤の数年ののち、ある日、ヘリゲルがなにげなく放った一矢にむかって師範は深く一礼し、「いましがた『それ』が射ました」と告げる。歓喜する弟子をたしなめて師範は教える。「いまの射にあなたは何の責任もないのです。あの矢は熟した果実が落ちるようにあなたから放たれたからです。」
こうした経験をへて、ヘリゲルはある種の持続的で集中的な身体訓練ののち、身体は「わたし」の統御に属さない超常的な運動能力(師範が「それ」と呼ぶもの)を発動しうることを学び知る。
「それ」の威力が個人の技量をはるかに超えたものであることを示すために師範は一夜ヘリゲルを道場に招き、暗闇の中で的に向かって二矢を放ってみせる。ヘリゲルが的を見ると、はじめの矢は的の中央に的中し、第二の矢は、最初の矢を断ち割って的中していた。このような離れ業は個人的努力をいくら積み上げても決して達成できるものではない。弓に「神霊」が宿るときのみ、かかる「神懸かり」的なパフォーマンスは可能なのである。

弓に威霊が宿るという信仰はむろん阿波師範の独創ではない。古来、日本には弓矢に神霊が宿り、それが狩猟能力を飛躍的に高めるという信仰が存在した。民俗学者、国文学者である折口信夫によると、古代人は狩猟の能力をもたらす「さち」と呼ばれる神霊を信仰していた。「さち」が憑依した狩人は超人的な狩猟能力を発揮する。古語には「さつ弓」なる言葉があるが、これは「弓」そのものに「さち」が憑依するという思考があったことを示している、と折口は書いている。
弓弦が激しく唸るとき、古代人はそれを「さちなるたましいの発動」と聴いた。弓の震動音は、それがもたらすはずの、豊かな獲物の期待と不可分だったのである。
おそらく私たちの身体の太古的な層には弓弦のうなりを、畏怖と期待のまじった感情で聞いた古代人の記憶がいまだにわだかまっている。

出典:
内田 樹
Simple man simple dream -1
http://www.tatsuru.com/columns/simple/01.html
上記のページには、三つのエッセイがありますが、
 私がフェミニズムを嫌いな訳
 国際社会とは何か
 ウッドストック
この引用は、最後のウッドストックというエッセイです。


この記事を書いた人について[9/6更新]:

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